僕は旅行が好きだが旅の栞は存在しない、頭の中にもない。 最近行った旅行は、無理なく起きれる時間と飛行機の運行状況を見て、前日に行き先を決めた。 ホテルも現地で… 最悪、野宿の可能性もありうる ノープランの旅なのである。 道程未設定の旅は未開の地を進むRPGの冒険ようで、物語を自作する感覚がたまらない。 何もない雪国の小さな駅で終電を無くし死にかけた事もあるが、リスクがなければ冒険ではない。 (…冒険ではなくただの旅行なのだが) “旅行はノープラン”を貫いていたが例外もある。 父と呑み交わした高知酒… 当時の彼女から父へのプレゼントを1年間放置… 一緒に呑む機会を待っていたらしい。 『いやいや…日本酒を1年間放置?』 ココロのなかで溜息をつきながら、 旬が過ぎてるであろう酒を呑む… 『……旨い。』 その酒は… 唯の一献で僕のココロを先入観から引き剥がし、次の一献で宙に浮いたココロは抗えない力により高知に引き寄せられた。 この日本酒のポテンシャル、酒蔵の実力は凄まじい… その酒蔵はー 旅酒27番、 母親の出身地、高知『司牡丹酒造』。 ちょうどその頃、 所属していた高知県人会から高知旅行の誘いがあったが断っていた。 『司牡丹酒造を行程に入れるから行こう。』と言われ… 『行きます!』と即答。 常温1年熟成司牡丹を呑んでなければ行っていない。 60-70代経営者ばかりの県人会理事達が考えた完璧な旅の栞… 台本ありきの旅が好きな方々にはウケが良いのだが、ノープラン旅行が趣味の僕のココロは、旅の間ずっと“司牡丹”にあった。
司牡丹に近付くチャーターバス… 『ん…?通り過ぎた…?』 修学旅行を待ち侘びる子供のように、旅行前から酒蔵の写真をずっと見てた。 初めて通る道でも司牡丹は見逃さない。 県人会会長を問い詰めるも 『時間がね…ハハハ。』 栞にあった司牡丹は、栞にない柿狩りに変わった。 『司牡丹酒造に行く』は、 僕を旅行に連れ出す為のブラフ… 経営者達の嘘に踊らされた。 今でも司牡丹を呑むたびに思い出し、高知に行きたくなる。 唯一のゴールにも辿り着かない旅だったが、最高の旅の思い出である。
奇跡の清流 仁淀ブルー